全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’です。
2023年の秋に、奈良の當麻寺をおとずれました。歴史になんの興味もない夫をおいしいものでつって、仏像をめぐる旅につき合ってもらっています。ところが、夫がだんだんと成長してきたのです。そこのところを中心にお届けしたいと思います。
目次
あれ?なんかヘンだよ!
近鉄南大阪線の当麻寺駅を降りまして、当然(?)中将餅をいただきまして、まーっ直ぐまーっ直ぐ歩くこと20分くらいかしら。たどり着いたのは當麻寺です。
入り口の仁王門の金剛力士像がご不在で、「蜂の巣ができちゃったから修理中なんだよ」などと知ったかぶる私に夫が言います。「あれ?なんかヘンだよ!」と。なんでも、これまでにおとずれたお寺の伽藍とはちょっと違うのだそう。おかしなところに塔が見えるのだと言います。
當麻寺訪問の目的
私たち夫婦は、見えない私の希望で仏像をつくられた年代順にめぐる旅をしています。これまでに、飛鳥寺、法隆寺、興福寺、深大寺、東京国立博物館、野中寺とめぐってまいりました。
このたびの當麻寺訪問の目的は、興福寺国宝館の仏頭にそっくりという塑像の弥勒仏と、法隆寺の次に古いという乾漆の四天王像にお会いすることです。
まずは本堂の当麻曼荼羅を拝む
弥勒仏も四天王像も金堂にいらっしゃることは知っていたのですが、受け付けは本堂ですよと事前の調べでわかっていました。気ははやるものの、まずは本堂に向かいます。
当麻曼荼羅の前で正座をして、流れている音声ガイドで當麻寺の歴史を学びます。さらに、音声ガイドよりも詳しい歴史もおうかがいすることができました。そこで私たちはなーるほどと、塔の位置の不思議を理解したのであります。
本堂は昔は本堂じゃなかった
当麻寺駅からまーっ直ぐまーっ直ぐ歩いてきた私たち。方向で言うと東から西に歩いてきたのだと思うのです。正面の仁王門をくぐると、また正面に本堂があります。門と本堂の位置関係はおかしくありませんが、東西南北で言うとおかしいことに気づいてくださいますか?
ふつうお寺は北を背にして南を向いているものです。ところが、當麻寺の本堂は西を背にして東を向いているのです。これはなぜか。知りたい方は當麻寺へどうぞ、ってちがうちがう。
さて、本堂が東を向いているのはどうしてか?それは、初めは本堂ではなかったからです。
当初、現在の本堂は当麻曼荼羅があるだけの小さなお堂だったのだけれど、当麻曼荼羅を求めて多くの人が集まるようになりました。そうなればお堂はだんだんと大きくする必要があり、実際に増築(?)が繰り返されたようです。やがて、こうなったらもうこっちが本堂でしょうという共通認識が生まれ、現在に至るというわけです。
塔の位置の不思議
であるからして、夫が見て「あれ?なんかヘンだよ!」と感じたのは大正解。歴史になんの興味もないというのに、仏像をめぐる旅を始めてまだ1年も経っていないというのに、止利様式といくつかの伽藍配置を教えただけで當麻寺の伽藍に違和感を覚えるあたりかなり筋がいい。これはこれで参ります。
つまり、夫が異変を感じた塔は、当初の伽藍配置による塔の位置ということなのです。仁王門をくぐると、左側に手前、奥というように東塔と西塔が並んで見えてしまうから、現在の本堂に対して塔の位置がおかしく感じられるのです。
いざ金堂へ
塔の不思議を理解して、満足して帰ってしまいそうになりましたがいかんいかん。まだ目的を果たしていませんよ。というわけで金堂に向かいます。
無事に、弥勒仏と四天王像にお会いすることができました。弥勒仏が塑像だということ、興福寺の仏頭にそっくりであることを夫に確認してもらいました。四天王像は法隆寺の四天王像よりもちょっとは動きが出ていると思うけどという私に、夫はまだまだ四天王像っぽくないよという感想でした。
金堂には後ろから入る
仏像にお会いすることを目的に當麻寺をおとずれた私ですが、塔の不思議を発端に伽藍のほうがおもしろくてたまらなくなってしまいました。本来の訪問目的である金堂にも、なんと後ろから入るはめに。しかも前は閉じてる……。
仁王門から本堂につながる参道(?)がちょうど金堂の後ろに当たるもので、便宜的にこうなったものと思われます。
當麻寺の仏像は美術史的に重要な側面を持っていて、だからこそ私はおとずれているわけなのだし、塔の歴史も古くて大切です。もちろんどれも大切にされてはいますが、それよりもなによりも曼荼羅の本堂が重要なのだという雰囲気に、強い興味をそそられる結果となりました。
午後4時の秘密、練供養会式
仏像にお会いできて大満足の私たち夫婦。講堂をお参りして境内に出ると、今度は練供養会式のことをおうかがいすることができました。私が伝達するといい加減な内容になってしまいそうなので、みなさんは次のページでお勉強してください。
とまあ、このページにある内容を現地で詳しく教えていただきました。あそこからあそこまで架け橋が組まれるのだというように。現地で高さなんかを目にしながら架け橋の大きさをイメージすると壮大です。実際の4月14日は相当なものに違いありません。
そして、午後4時の秘密です。午後4時でないといけない理由があるのよ。そう、日が落ちるから、西に。曼荼羅道の向こうに日が落ちるとどうなるか。まるで極楽浄土というわけなのです!
参考資料
おわりに
全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’の2023年秋の當麻寺訪問記でした。
見えない仏像を人に見てもらって何が楽しいのだろうと自分でも思いますが、まあまあ楽しいです。でも、今回のように伽藍を歩き回ってあれ?あれ?と思いながらめぐると当然もっと楽しい。いい旅でした。
▼ まとめ ▼
- 「仁王門・本堂」と「塔・金堂・講堂」の向きと位置を確認しよう
- 金堂に後ろから入ろう
- 弥勒仏が興福寺の仏頭とそっくりであることを確認しよう
- 四天王像の動きに注目しよう
- 練供養会式をイメージしよう
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おわりっ!