事前情報ゼロ!夏パスで全盲が行ってみた大阪・関西万博

全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’です。

大阪・関西万博に夫が行きたがっていたけれど、ぐずぐずしていたら開催期間の半分が過ぎてしまいました。ブルーインパルス飛行のニュースでそれを知った私たち夫婦。もう勢いで行くしかないと、何も調べずにチケットとホテルと切符を手配して家を飛び出しました。そんな2泊3日の記録です。

「夏パス」を買う

夏休み期間の大阪はホテルが激しく混んでいるだろうと想像していたのですがそうでもなさそう。いつでも予約ができる感じだったので、先に本命の万博チケットを購入することにしました。

チケットの種類はいろいろあるのですね。入場できればどれでもよかったけれど「夏パス」なるものの適用期間のようだったのでこれを購入することにしました。8月31日までなら何度でも入場できるとのこと。あまりにも気に入ったらもう一度行くかもしれません。

「夏パス」は2日間予約ができるので、2泊3日の1日目と2日目を予約しました。2日目のパビリオン抽選には間に合ったので適当に申し込んでみたところ、シグネチャーパビリオンの一つに当選。これで一つは体験できそうで安心しました。

夢洲駅に着く

Osaka Metroの御堂筋線と中央線を乗り継いで夢洲駅に向かいました。お昼前の車内はまあまあ混んでいて、乗り継ぎ駅の本町では駅構内をかなり歩くので大変ではありましたが、Osaka Metroのホームは冷房が効いているため涼しい環境で落ち着いて移動することができました。

夢洲駅のエスカレーターを上がって地上に出るともうそこは万博会場です。各国の国旗がたなびき、ゲートの先に大屋根リングが見えるようでした。

東ゲートを通過する

万博のゲートでは入場前に「手荷物検査」が行われます。荷物の中に飲み物がある場合はそれを出して荷物といっしょに検査員に渡します。ポケットの中も空にして身体のチェックをしてもらいました。ここは検査員の指示に従えばOK、難しいことはありませんでした。

私は「夏パス」で入場するのでQRコードと顔認証が必要でした。このあたりの準備は夫におまかせし、現地ではスタッフの指示に従って顔を支持された方向に向けるだけで大丈夫でした。顔認証がうまくいくとスタッフが「バッチリデス!」とほめてくれました。

大屋根リングに上る

まずは大屋根リングだろうということで、エレベーターでリングの上に上ってみました。地上から12メートルの高さになるようです。リングの幅は約30メートル、内径は600メートルの木造建築です。リングは二重になっていて、さらに高いところにも行けるようでした。

とにかく私たち夫婦の事前情報はゼロです。このリングの上で夫と初の打ち合わせ。地図を広げて夫が言います。「えーと、時計の針で言うとここが2時半くらい、10時のところが西ゲート、リングの内側に海外パビリオンがいろいろと建っていて、国内の企業パビリオンはリングの外に多いみたい、どこにいく?」と。

「どこにいく?」と言われても私にだってさっぱりわかりません。夫も戸惑い気味。「まあ、まずはリングの内側をふらふらしてみたらいいんじゃない?」という私の提案でリングを下りました。リングの上からはところどころ内側に向かって設置されているエスカレーターを下るとよさそうでした。

パビリオン予約と「優先レーン」のこと

パビリオン体験記の前に、パビリオンの予約と「優先レーン」のことを書いておきます。

私たちは事前の抽選でシグネチャーパビリオンの一つに当選しました。それ以外の予約は当日を含めできなかったので、現地で並べば入場できるパビリオンだけを体験することになりました。

視覚障害者は「優先レーン」に並ぶ対象になるようでしたが、こちらから積極的にそこを利用することはしませんでした。ふつうに並んで、私の白杖に気づいたパビリオンのスタッフに声をかけられたときだけスタッフの指示に従いました。

そんな調子でもいくつものパビリオンにおじゃまできたし、「優先レーン」への導き方には各国パビリオンのお国柄がしのばれて、個人的には貴重な体験になりました。

パビリオンを体験する

ここでは印象に残ったパビリオンをいくつか抜粋して紹介してみます。

夫婦ともに感激の優秀パビリオン

3日間の大阪・関西万博滞在を終えて、夫婦で一番よかったパビリオンはどこだろうと話し合って一致したパビリオンは「ドイツ」です。

ドイツ

大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。このテーマを先進国が素直に表現したらこんなふうではないかと私が想像したそのまんまのパビリオンがドイツの「わ!ドイツ」です。洋の東西を問わず、老いも若きも納得できるパビリオンだと思います。

全盲の視覚障害者の私がとてもいいと感じたのはマスコットのサーキュラー。パビリオンの入り口でスタッフが「仲良くしてね」と言いながら腕にかけてくれるこのマスコットは、そのまるさとカラフルさがかわいいだけではなく、音声ガイドという大層な役割を担っているのであります。

サーキュラーを展示パネルの受信機に当てて振動を確認したら、今度は自分の耳に当てて解説を聴くという操作を繰り返します。受信機に当てるところは見える夫の手を借りることになるのですがそれほど手間ではなく、なによりも見えるみなさんと同じ行動様式で進めたことに喜びを感じました。

なぜか癒されたパビリオン3つ

見えないと何もわからないのではないかと言われるとそうなのですが、それでもわかることはわかるということも伝えたい。何も見えないのだけれどなんだか不思議と癒されたパビリオンを3つ紹介します。

ポーランド

ポーランドパビリオンはしゃらしゃらとした音のマズルカとポロネーズに癒されました。このしゃらしゃらとした音は自然素材の筆みたいなものが壁をこする音らしいのだけど、じっとよーく聴いているとその音はたしかに音楽を奏でています。しばらく聞き入ってしまいました。

オマーン

オマーンパビリオンの水のしつらえに癒されました。オマーンには水はなさそうに思ったけれど、だからこそ大切なんだとすぐに合点がいきました。炎天下をくぐってはるばるやってきた私にも水は大切で、その思いに大いに共感したのでした。

オーストリア

オーストリアは音楽で完璧に整えられていました。クラシックコンサートに招かれた気分になります。葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」が屋根裏に描かれているというベーゼンドルファーが展示されていて、最初のコンサートではこのピアノが自動演奏してくれていたのではないかと思うのですが、鍵盤部分が夫には見えなかったとのことで確認できずちょっと残念でした。

さわって楽しんだパビリオン3つ

パビリオン内にはさわらせてもらえる展示物も結構ありました。かといって、さわり続けるのも疲れます。ほどよく体験できたパビリオンやそのコツなどを紹介します。

コロンビア

コロンビアパビリオンには、コロンビアの産物に触れることができるコーナーがありました。コーヒー豆やカカオ、パーム油や塩やエメラルドなどが小さな器のようなものに少しずつ入っています。そこに手を伸ばすとそれらに触れることができます。

手を伸ばすときには見える夫の手を借りましたが、同じ高さに同じように入っているだけなので調子がつかみやすく、そこにあったもののすべてに触れることができました。油も水もあるのにぜんぜん手が汚れなかったことも驚きです。

バーレーン

バーレーンパビリオンは海がテーマです。展示物の多くに触れることができます。私は船をいっぱいさわりました。木の感じも大きさもよくわかって感激。だけど木材がささくれているところもあるので見えない人は気をつけてさわってくださいね。

コモンズ

万博内には「コモンズ」という共同館があります。ここには数か国がいっしょに出展ブースを構えています。単独のパビリオンと比べると規模は小さいけれど、いくつもの国を次々と体験できるところはいいです。

それぞれの国のスタッフがいろいろな形で声をかけてくれます。そんなときは耳を傾けるといいことばかりでした。楽器を叩かせてもらったり、香辛料の香りを楽しませてもらったり。

スタッフはこちらが見えないことをわかったうえでさまざまな気遣いを見せてくれました。そうとは言わずにね。いつもは遠慮しがちな私も万博ではいっぱい甘えていろいろなことを教えてもらいました。そういう雰囲気が満ちていました。

歴史好きの私が興奮したパビリオン3つ

私は歴史好きなので次に紹介するパビリオンに大興奮でした。それぞれの経験や知識によって心を打たれる場面はまったく違うと思いますが、一つの例として紹介します。

スペイン

スペインパビリオンは海流がテーマでした。「海流×日本」ということから古い書簡のようなものが展示されていて、どうやらそれは伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節団の関連文書のようでした。日本で開催されている万博に訪れている日本人の私にとっては粋な計らいで感激しました。

中国

中国パビリオンはでかい!巻物を模しているというパビリオン建築もでかければ、中に展示されている青銅器もでかいでかい。本当にびっくりする大きさであります。そして、夫が「動物の骨に字が書いてある」と言いうので多分それは甲骨文字。長い歴史と強い中国を見せつけられるといった感じで実に万博らしいパビリオンでした。

マルタ

マルタパビリオンには修復したての甲冑が飾られていました。マルタに甲冑ってなにゆえだろうと思いますが、これは1862年に福沢諭吉らが文久遣欧使節団としてマルタ島を訪れたときの贈り物なのだそう。幕末の人々の文化を吸収しようとする意欲はすごいです。私などこの万博内を3日間歩いただけでくたくただというのに、諭吉がマルタまで行ったとはと感嘆したのでした。

もっと知りたくなった国のパビリオン

どのパビリオンも同じようなレベルで整っているわけではありません。万博らしいしつらえの国があれば、解説がなかったり和訳がめちゃくちゃだったりする国もあります。だけどそこが興味深いと思いました。

トルクメニスタン

トルクメニスタンパビリオンは「ようこそトルクメニスタンへ」と謎の男性の写真が迎えてくれます。この人は誰?と気になって夫がその場で調べたところ、この国のプレジデントでした。

展示物にわかりやすい解説はないし質問しようにもスタッフがいない。見たことのない日用品に自国製のパソコン、トルクメニスタンでしかとれないというけいれんに効く薬草などなどよくわからないけれど気になるものばかりが並びます。教科書も展示されていてぺらぺらとめくっている夫。どの本も最初のページはプレジデントなんだとか。気になるー。

3日間で訪れたパビリオン一覧

先に紹介したパビリオン体験記は次にリストアップしたパビリオンを体験した中で感じたことです。行っていないパビリオンもたくさんあるのでそのあたりを考慮して読んでください。(公式サイトの「パビリオン」にある名称を50音順で並べました。)

  1. アラブ首長国連邦館
  2. いのち動的平衡館
  3. いのちの遊び場 クラゲ館
  4. インド館
  5. インドネシアパビリオン
  6. オーストラリアパビリオン
  7. オーストリアパビリオン
  8. オマーンパビリオン
  9. 韓国館
  10. クウェート国館
  11. コロンビアパビリオン
  12. サウジアラビア王国館
  13. シンガポールパビリオン
  14. スイスパビリオン
  15. スペインパビリオン
  16. セネガル共和国パビリオン
  17. チェコナショナルパビリオン
  18. 中国パビリオン
  19. ドイツ館
  20. トルクメニスタンパビリオン
  21. バーレーンパビリオン
  22. フィリピンパビリオン
  23. ブラジルパビリオン
  24. 米国パビリオン
  25. ポーランドパビリオン
  26. 北欧館
  27. ポルトガルパビリオン
  28. マルタパビリオン
  29. マレーシアパビリオン
  30. よしもと waraii myraii館
  31. 夜の地球 Earth at Night
  32. コモンズA
  33. コモンズB
  34. コモンズC
  35. コモンズD

再び大屋根リングに登る

はじまりがあればおわりもある。ついに大阪・関西万博に別れを告げるときがやってきました。

最後に大屋根リングの一番高いところに行きたいという私の希望で、猛暑の中上ってきました。地上12メートルのところにはエレベーターで行けるけれど、その先の20メートルのところまではスロープ状になったところを歩いていかなければなりません。まあまあ回遊させる感じの設計でして、最後の力を振り絞って上りましたわよ。

トイレと水分補給のこと

万博を訪れるにあたり視覚障害者の私が一番心配だったことは、多目的トイレが混んでいたらどうしようということでした。でもまったく問題なし。3日間で万博のトイレには1回しか行かなかったし、いつもだいたい空いていました。

そうです、そうなのです。夏は暑いのです。飲んでも飲んでも汗にしかならないみたいで、それは私だけではないようで……。

となると水分補給が気になるわけですが、自動販売機もごく普通に利用できました。すごく高いのかなと思っていたけれどそれほどではなかったので、何本も持ち込んで重い荷物になるよりは、必要なときに冷たい飲料を手に入れるほうがいいと思いました。

おわりに

全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’夫婦の大阪・関西万博体験記でした。

事前情報ゼロのまま勢いで出かけてしまったけれど有意義な3日間になりました。「夏パス」だったので初日を体験して様子を見てから3日目の予約ができたり、逆に時間が足りなかったらまた来ればいいじゃないかと余裕を持てたりしたので、そこのところは「夏パス」をよい方向に使えたと思います。

いずれにしても、行かなければ体験できないのであり、ぐずぐずしちゃうのなら準備や用意なんかすっ飛ばして出かけてしまえと思いきれた自分はえらかった。暑さに負けずに我ながらよくがんばりました。