こんにちは、全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’です。
うれしいのでも悲しいのでもなく、疲れて泣いてしまった法隆寺。嘘です。本当に泣いたわけではないけれど、泣かされましたな法隆寺。でも満足のいく訪問になりました。その珍道中と今後の課題をとくとごらんあれ。
目次
法隆寺訪問の目的
わたくし‘ぶちゃこま’は見える夫と国内の仏像を年代順に見る旅をしています。ここまでに、飛鳥寺(安居院)の飛鳥大仏とちょっとフライングして興福寺の仏頭(旧山田寺本尊)にお会いしてきました。いよいよ法隆寺です。法隆寺には確認したい仏像がたくさんあります。
▼ 法隆寺の仏像 ▼
飛鳥文化を中心に8体
- 釈迦三尊像
- 釈迦如来及び脇侍像/628年(戊子)
- 菩薩立像/像高56.7センチ・胸の前に両手で宝珠を持つ
- 法隆寺献納宝物・如来座像(145号)
- 救世観音像
- 百済観音像
- 四天王像/金堂
- 法隆寺献納宝物・菩薩立像(165号)
訪問前は上のリストにある仏像を確認するつもりでいました。
‘ぶちゃこま’夫妻が確認できた仏像
めでたく確認できた仏像は次の4体です。
- 釈迦三尊像
- 救世観音像
- 百済観音像
- 四天王像/金堂
8体中4体しか確認できず無念。それはそれは珍道中でした。
釈迦三尊像
金堂の釈迦三尊像はすぐにわかりました。仏様の前で夫に「止利様式」の解説を熱弁する‘ぶちゃこま’です。
▽ 止利様式の詳細はこちら ▽
ふむふむと、わかったんだかわかってないんだかあやしい夫。ついでに天蓋や天人像にも目を向けさせますがよく見えないということでした。この金堂の前に見てきた五重塔の塑像群も網がかかっていてよくは見えないと言っていたので、法隆寺は目が見えても見えなくてもそんなに変わらないんだなと思う‘ぶちゃこま’でした。
☆全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’境内の中心で伽藍を感じる
講堂に向かう途中で夫がいきなはからいをしてくれました。「‘ぶちゃこま’ちゃん、ここに立ってごらん」と境内のたっぷりの砂利の上に立たされます。「あっちが今行ってきた金堂、あっちがさっき行ってきた五重塔、それからあっちが今から行く講堂ね」とそれぞれの方向を教えてくれました。「今いるところはその3つのちょうど中心です」と。
すばらしい!これができただけで見えなくても現地をおとずれた意味があるってもんです。視覚障害者は、ぜひ塔と金堂と講堂の中心に立ってみて。なんならそこからそれぞれに向かってもう一度歩いてみて。伽藍の配置とスケールが実感できますよ。
「そういう意味ではこの桂昌院(生類憐みの令の人のお母さん)の灯篭はいらんね」とつぶやく私に「なんでこれがあるの?」と夫。かくかくしかじかと説明をしたら「灯篭を建てたのは本人の希望なの?それとも忖度?」と質問が重なります。「そんなことあたしゃ知らん、でもいらん」とやや罰当たりな会話をしながら講堂に向かいます。そしてちゃっかりおまもりも受けます。そして夫が言います。「こっちには四天王像がいるよ」と。
四天王像/金堂
ああそうだ、四天王像を見るのを忘れていたよと思い出した私。「ぼったっている四天王像がいるはずだよ、日本最古の四天王像だから大事なのよ、見てみて」と騒ぎ出す私に「ぼったってなんかいないよ、ちゃんと怖い四天王像」と夫。「そんなはずはない、ぼったっているはず」と私。「あれ?ここはどこだっけ?ここは講堂だ、私の言っている四天王像は金堂だよ」となって再び金堂に舞い戻る‘ぶちゃこま’夫妻です。
だっけっどっ、なかなか見つからなーーーい。さきほどから塑像群や天人像が見にくくて苦労させているので、夫への申し訳なさというか恐縮感が半端ない中で私も見えない目をじっとこらします。またさらに腹立たしいことには、中に人がいるようなのです。腕章をつけた外国人が、学芸員っぽい人に連れられて仏像の近くで通訳者つきの解説を聴いています。わかりやすそう、そして何より見やすそう……。悔しいので見えない私はその解説にじっと耳を傾けます。結果、天人像もいらっしゃれば四天王像も確かにいそうです。「あの人の話によるといるみたい」という私の声かけにねばってくれた夫、「ああこれかあーーー!!!」とやっとのことで発見しました。
金堂の四隅に確かにいますので、視覚障害者はがんばって同行者に探してもらってください。法隆寺の金堂には3体1セットの仏像が3セット並んでいます。その3セットのさらに外側の四隅にいます。四天王像だから4体いるんだけれど、全員がいっぺんに見えるようにはなっていないのでものすごくわかりにくいです。そして、四天王像感ゼロなので気をつけて。でもこの四天王像感ゼロであるところが美術史的特徴でありますので、ぜひともそれを堪能してくださいませ。
★これからの生き方に思いをはせる‘ぶちゃこま’夫妻
西院伽藍を見ただけでかなりおつかれの‘ぶちゃこま’夫妻、これから大宝蔵院と東院伽藍の夢殿を見て、斑鳩の里のハイキングだってするというのに大丈夫かしら。少し不安になってきました。
「あそこ(金堂の中)にはどうしたら入れるんだろうね」と夫がつぶやきます。「地位と名誉とお金があれば入れると思うよ」と私。「ほしい?」と聞いてみたら「いやいらないよ」と言っていました。
百済観音像
あれもこれも見てもらいたいけれど、もともと何度もおとずれる計画でいるので気楽にいこうと思い直す私。そうでなければ大変すぎて夫が参ってしまいます。この先は百済観音像と救世観音像がわかればそれでよし。そう決めるとかなり気持ちが軽くなりました。
大宝蔵院内の百済観音堂にはすっと美しい百済観音がいらっしゃいます。「百済観音は背の高いモデルさんがドレスを着てると思えばいいよ」と夫。なるほどー、そんな感じかあと言いながら二人で大宝蔵院内を流していたら、あら天人像。さっき見てみてとねだった天人像がそこにいます。夫によると、天蓋にどのようにくっついているかもこちらならわかるのだそう。へぇーってそれなりに興味深く見てくれました。よかった。
そして百万塔陀羅尼。こないだちょっと読み止した本に、この陀羅尼経は現存する世界最古の印刷物だということが書いてありました。(※1)あの本で言っていた陀羅尼かあと、なあんも見えないのに見えるかのように感心する私、よく考えたらいい加減なもんです。
救世観音像
西院伽藍の緊張がいい具合に解けた大宝蔵院の拝観でした。いよいよ東院伽藍の夢殿です。この夢殿の開扉と薬師寺東塔の落慶で奈良は大盛況のはずでしたが……。誰もおらん。「‘ぶちゃこま’ちゃん、夢殿は大行列じゃなかったの?」と夫が笑います。
何分でも、ひょっとしたら何時間でも救世観音と向かい合っていられそうでしたが、夫は断然百済観音推しのようであっさりと終了。「春と秋にしか会えないんだよー」と言ってみたけれど「ちゃんと見たよー」みたいにあしらわれて終わってしまったのでした。
今後の課題と難題
いろいろありましたがそれはそれとしてまあまあ満足した法隆寺観光。これからの課題は「金堂の中を歩ける人になれるように地位と名誉とお金を手に入れる!」ってちがうちがう。今回は飛鳥文化にしぼったにもかかわらず、見たい仏像8体中まだ4体にしか会えていないのだよ。これをなんとかしないといけません。ここで勘違いも含めて課題を整理したいと思います。
法隆寺献納宝物
まずは「法隆寺献納宝物」について。これは法隆寺から皇室に献納した宝物なので、ただいまの法隆寺にはありません。ではいずこ?となりまして、結論から言うと国有化されて東京国立博物館にあるようです。私が追いかけている献納宝物は次の2体です。
- 法隆寺献納宝物・如来座像(145号)
- 法隆寺献納宝物・菩薩立像(165号)
145号の如来座像は東京国立博物館の公式サイトのコレクションにありまして、2023年4月25日から2024年4月21日まで展示されることがわかりましたが(※2)、165号の菩薩立像にお会いできるかどうかは私の力では調べきれませんでした。これは実際に博物館に出かけて確かめてみます。
大宝蔵院?大宝蔵殿?どっち?
次の謎は、法隆寺の大宝蔵院と大宝蔵殿の違いです。お名前がとっても似ていて、同じものを示していると思っていたのですがどうやら違うようです。(※3)大宝蔵院のほうが新しくて大宝蔵殿からおおくの寺宝は移されたようなのですが、どちらになにがおさめられているのかは正確にわかりませんでした。私が基本にしている書籍は大宝蔵院の落成より前に発刊されたもので古く、大宝蔵院に所蔵されているものも大宝蔵殿と記されています。こんな場合のインターネットなのですが、この点については役立たずで混迷を極めています。とりあえず、私がお会いしたい仏像は次の2体です。
- 釈迦如来及び脇侍像/628年(戊子)
- 菩薩立像/像高56.7センチ・胸の前に両手で宝珠を持つ
前者は私の法隆寺訪問のときには東北の施設にお出かけ中でしたので会えなくて当然なのですが、ふだんはどちらにいらっしゃるのでしょうか。後者は大宝蔵院にいらっしゃれば会えたはずですが、天人像と四天王像を探すのに苦しんだ我々のエネルギーがもたずに今回は探しきれませんでした。大宝蔵殿のほうにいらっしゃって特別な日にしか会えないよということであれば、その旨を公式に示しておいていただけると幸いです。
文化財情報をください!
博物館や美術館、文化財の所有者は、自分のところで所有している文化財がなにか、それはいつどこで鑑賞できるかを公式に示しておいてほしいです。所有側の推しだけでなく、すべての文化財の情報をください。視覚障害者の私は、インターネット上にある情報と読める書籍をできる限り読んで対応していますが、これまで述べてきたような困難を抱えているところでございます。
参考資料
おわりに
全盲の視覚障害者‘ぶちゃこま’の2023年4月の法隆寺訪問記でした。ここまで読む人がいらっしゃるかどうかはわかりませんが、読むだけで疲れたことでしょう。お詫びします。でも、見えなくても感じるところはあるので、健脚で、気心知れた同行者がいるのならぜひおとずれてほしいと思います。
▼ まとめ ▼
- 五重塔と金堂と講堂の中心に立って伽藍配置とスケールを感じよう
- ぼったっている金堂の四天王像を探そう
- 天蓋と天人像は金堂ではなく大宝蔵院で確かめよう
- 夢殿の開扉の混雑は恐れることなし(たぶん!?)
- 大量の砂利に負けない靴でおとずれるべし
脚注
- 印刷博物館編『日本印刷文化史』
- 1部 古代 1章 奈良時代に始まった日本の印刷
- 東京国立博物館 – コレクション コレクション一覧 名品ギャラリー 館蔵品一覧 如来坐像(にょらいざぞう)
- 法隆寺 – Wikipedia
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おわりっ!